要素価格均等化定理 日本の賃金が上昇しない理由(1)

日本の賃金は、過去30年間上昇していません。それどころか少し低下しています。

経済学の中核理論は、日本の賃金低下メカニズムを完璧に説明しています。その理論を「要素価格均等化定理」と言います。

要素価格均等化定理は、数ある経済理論の中の1つではありません。経済学、国際経済学のど真ん中にある理論です。物理学で言えば、ニュートン力学のような理論です。

当然、要素価格均等化定理は国際経済学の教科書に書かれています。そのため、インターネット上で「要素価格均等化定理」と検索すれば、誰でもその説明を読むことができます。

それでも経済学を学んだことがない人にとっては、要素価格均等化定理は難しすぎる内容です。ここでは、その内容をごく簡単に説明することにします。

要素価格の代表は賃金です。そのため要素価格均等化定理は、「賃金同一化理論」と言い換えることができます。

中国は名目為替レートと実質為替レートを引き下げてきました。1980年は1人民元が151円でした。それが直近では20円です。9割近い下落です。賃金などのコストも9割近く下がりました。

中国では1978年に鄧小平が改革・開放政策を開始しました。その中で人民元の価値を大幅に引き下げる政策を採用しました。その結果、中国の円建て賃金も大幅に低下しました。その安さを武器に、中国の工業製品は競争力を拡大し、世界の工場になりました。

当時の日本は欧米との貿易摩擦が激しく、自由化・国際化を強化する政策を続けました。

要素価格均等化定理はグローバルな完全競争の下でしか成立しません。日本の自由化・国際化が進行し、完全競争に近い環境が日中間で出来上がったわけです。

中国は人民元安により円建て賃金を大きく引き下げ、同時に完全競争に近い環境が日中間で出来上がりました。その結果、日中間では要素価格均等化定理が成立し、賃金同一化が進行しました。

要素価格均等化定理はEU域内でも成立しています。賃金上昇率の高い国はラトビアなどの東欧諸国です。EU域内では低賃金の東欧諸国で大幅な賃金上昇が発生しています。

ちなみにラトビアは人口がピークから3割も急減しています。人口急減による人手不足が賃金上昇の速度を速め、要素価格均等化定理の成立時期を早くしているのです。日本の人口はピークから3%しか減少しておらず、ラトビア級の人手不足に達するのはずっと先になります。

要素価格均等化定理は経済学の中核理論でありながら、非現実的ということで使われませんでした。しかし、自由化・国際化が進行した現在では、東アジアや欧州で成立しています。

欧米は中国との貿易の際に、高い輸送コストが必要です。欧米はこの輸送コスト障壁で一定程度守られています。日中間では輸送コスト障壁が小さいです。そのため、賃金同一化が進みやすいのです。

1970年ー1980年代に日米間で賃金同一化が進行しそうになりました。そのため日米間で激しい貿易摩擦が発生しました。

要素価格均等化定理は完全自由貿易下でしか成立しません。自由な資本主義国アメリカは、自動車などの一部貿易財に関税や規制を設けることにより、日米間の賃金同一化を阻止しました。

その後は日米間で賃金同一化は進行しなくなりましたが、日中間で賃金同一化が進行しました。

現在でも中国の賃金は、日本の半分以下です。今後も日中の賃金同一化は続きます。日本の賃金は当分の間、上昇しません。インフレで名目賃金が多少上昇しても、実質賃金は上昇しません。

日本の賃金が上昇しない理由は謎ではありません。国際経済学の中核理論通りなのです。

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