日本の賃金が上がらない最大の理由は、要素価格均等化定理が説明しています。自由貿易の下では、高い日本と安い中国の賃金は同一化します。これは前回書き記しました。
2番目の理由は、クルーグマンの新貿易理論が説明しています。アメリカが高くなり、日本が安くなった理由を、クルーグマンの新貿易理論が非常に明解な説明をしてくれます。
要素価格均等化定理は完全自由貿易を前提としています。クルーグマンの新貿易理論は規模の経済、すなわち収穫逓増がある場合の貿易理論です。
クルーグマンの新貿易理論は「規模の経済がある場合は、寡占による低コストが貿易を引き起こし、寡占企業を有する国が大きな利益を獲得する」という貿易理論です。
規模の経済による寡占が低コスト企業を作ります。寡占による低価格が原因で貿易が行われます。自由貿易下では、低コストの寡占企業が世界規模でも寡占を成立させやすくなります。
グローバル経済における寡占下での貿易利益は、寡占企業が属する国が多くの利益を獲得します。グローバル経済において規模の経済がある場合は、「勝者総取り」が実現しやすいのです。
その代表としてパブリック・クラウドを例にあげます。アメリカはアマゾン、マイクロソフト、グーグルなどの寡占企業がパブリック・クラウドをいち早く開発して世界に広めました。
現在の日本のパブリック・クラウドは、アマゾンなどの米国企業が独占しています。しかし以前は富士通などの日本企業も、パブリック・クラウドを営んでいました。
しかし日本は円高が続き、ハードウエアが弱体化してしまいました。同時に、企業全体も弱体化しました。そのため、ソフトウエアも弱体化しました。要素価格均等化定理で必然的な結果です。
日本政府はそうした環境下でもアメリカとの自由貿易を推進しました。富士通などの日本のパブリック・クラウド企業は後発でした。その上、円高で弱体化していました。
アマゾンなどの米系企業は、弱体化しても自由貿易を貫く日本に対する攻勢を強めました。そのため富士通などの日本企業は、パブリック・クラウドから撤退するしか道がありませんでした。結果として、日本のパブリック・クラウドは、アマゾンを中心とした米系だけになりました。
マイクロソフトの設立は1975年です。 アマゾンは1994年、グーグルは1998年の設立です。
クルーグマンの新貿易理論は1980年公表です。2008年にはこの理論を作ったことでノーベル経済学賞を受賞しました。
多くの国はクルーグマンの新貿易理論を使いました。自由貿易を推進しながらも、制限もかけました。
EU、中国、韓国、台湾もクラウドは強くありませんでした。しかし彼らは独自のパブリック・クラウドを作り上げています。EUのパブリック・クラウド、 GAIA-Xは有名です。
EU、韓国、台湾は自由で開かれた資本主義の国です。しかし彼らは完全な自由貿易ではなく、自国が成長する自由貿易を追求しました。そのため完全自由貿易に制限を加え、独自のクラウド企業を育成しました。
クルーグマンの新貿易理論が示す通り、パブリック・クラウドが獲得する巨額の利益はアマゾンなどが本社を置くアメリカに移転します。
アメリカの賃金が高い理由は、アマゾンなどのグローバル寡占企業が巨額の付加価値を獲得し、賃金も大きく引き上げたからです。
反対に、日本企業と日本が獲得する付加価値は大きく減少しました。その結果、日本の賃金は上がらなくなりました。
クルーグマンの新貿易理論は寡占により利益が移転するメカニズムを、非常に明確に説明してくれます。同時に賃金が高いアメリカと安い日本に別れた理由も、非常に明快に説明してくれます。
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